運命を左右する決定的瞬間は、いつどのようにやって来るのでしょうか? 親友のランナーがゴール前で見せた、奇跡の追い上げ。和やかな送別会から突如勃発する乱闘騒ぎ。トラウマを乗り越えるため参加した水泳教室での、予期せぬ出来事。廃れゆく自動車産業の街で生きる、ひとりの労働者……。カナダの作家、アレクサンダー・マクラウドの短篇集『煉瓦を運ぶ』(新潮クレスト・ブックス)には、誰の人生にも起こりうる重大な瞬間のドラマが鮮やかに切り取られています。著者は、寡作ながら短篇の名手として名高い故アリステア・マクラウド(『灰色の輝ける贈り物』『冬の犬』)の長男。父親同様に教職の傍らで10数年の歳月をかけて書きためられた7篇が収録されたこのデビュー作は、2010年に本国で発売されるや忽ち高い評価を獲得しました。
美しくも厳しいカナダの大自然の中で生きる漁師や坑夫の姿を描いた父アリステアに対し、一世代下のアレクサンダーは、工業地帯の街で暮らす労働者や若者たちが直面する人生の岐路を、簡潔な言葉を用いて完璧なリズムで描き出します。そして何より印象的なのは、作品に登場する人物たちが持つ豊かな肉体と運動、それらに伴う思考と感情の発露の瞬間です。作家の佐伯一麦さんは、本書について次のような推薦文を寄せています。
中距離を走る。煉瓦を運ぶ。自転車を漕ぐ。ダイビングし、泳ぐ。ひたすら歩く……。それらの行動に駆使される筋肉の、何と繊細であることか。盛り上がった力瘤ではなく、さしずめ有酸素運動に適した赤筋。アレクサンダー・マクラウドが描き出す、年齢も、性別も、状況も異なる主人公たちは皆、自身を外側から見つめるまなざしを持ち、身体で冷静に思考する。そこに生まれる、行動と人生についての独特な省察。作品に共通する舞台であるカナダの斜陽化する工業都市ウィンザーの街までが、身体性を帯びて息づいているかのようだ。
本書の刊行を記念して、専業作家になる前に肉体労働に従事していた経験を、初期の代表作『ショート・サーキット』などでも描いている佐伯一麦さんを仙台からお招きし、訳者の小竹由美子さんとのスペシャル・トークライブを開催します。短篇小説の悦びを語り合うこの貴重な機会に、ぜひ奮ってご参加ください。
【出演者プロフィール】
・佐伯一麦(さえき・かずみ)
作家。1959年、宮城県仙台市生れ。仙台第一高校卒。雑誌記者、電気工など様々な職に就きながら、1984年「木を接ぐ」で「海燕」新人文学賞を受賞する。1990年『ショート・サーキット』で野間文芸新人賞、1991年『ア・ルース・ボーイ』で三島賞、1997年『遠き山に日は落ちて』で木山捷平賞、2004年『鉄塔家族』で大佛賞、2007年『ノルゲ Norge』で野間文芸賞、2014年『還れぬ家』で毎日芸術賞、『渡良瀬』で伊藤整賞を、それぞれ受賞。他に『雛の棲家』『一輪』『木の一族』『石の肺』『ピロティ』『誰かがそれを』『麦主義者の小説論』『空にみずうみ』など著書多数。
・小竹由美子(こたけ・ゆみこ)
翻訳家。1954年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。訳書に、2013年にノーベル文学賞を受賞したアリス・マンローの『イラクサ』『林檎の木の下で』『小説のように』『ディア・ライフ』『善き女の愛』、ネイサン・イングランダー『アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること』、ジュリー・オオツカ『屋根裏の仏さま』(岩本正恵との共訳)、ジョン・アーヴィング『あの川のほとりで』『ひとりの体で』など多数。
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2016/07/03 Sun -
佐伯一麦×小竹由美子
「運命を左右する決定的瞬間〜短篇小説の悦び」
アレクサンダー・マクラウド『煉瓦を運ぶ』(新潮クレスト・ブックス)刊行記念
- 04/20 Sat 豊﨑由美×マライ・メントライン×神島大輔
第87回「読んでいいとも! ガイブンの輪」 - 04/21 Sun フィクショネス 文学の教室
「エーリヒ・ケストナー」を
3ヶ月かけてじっくりと読む - 04/23 Tue 室橋裕和×佐野亨
「街を歩いて見えてきたもの 新大久保と横浜」
『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』(KADOKAWA)刊行記念 - 04/24 Wed 秋草俊一郎×戸塚学×阿部公彦
「国語教科書の潜在力――これからの文学教育」
『教科書の中の世界文学 消えた作品・残った作品25選』(三省堂)
『文章は「形」から読む ことばの魔術と出会うために』(集英社)W刊行記念 - 04/25 Thu 村瀬秀信×池松舞
「阪神タイガース二大奇書対談~短歌を詠んだら日本一となって、老人監督の謎が明らかになった」
『虎の血』(集英社)『野球短歌』(ナナロク社)W刊行記念 - 04/26 Fri 桜林直子×星野概念
「【連続対談シリーズ】 つまり、“生きづらい”ってなんなのさ vol.1 〜精神科医からはどう見えてるか教えてよ〜」 - 04/27 Sat 柴田紗希
「柴田紗希のたびものがたり“anything is goods”」 - 04/28 Sun 山階基×古賀及子
「暮らしをまなざす言葉」
『夜を着こなせたなら』(短歌研究社)刊行記念 - 05/01 Wed 太田省一×水道橋博士
「”いいとも!”とは何だったのか?」
『「笑っていいとも!」とその時代』(集英社)刊行記念 - 05/02 Thu 藤井青銅×石井玄
「”面白い企画”はどのように生まれるのか」
『トークの教室』4刷&「玄石」設立W記念 - 05/03 Fri なかしましほ × omo!
「辛くない韓国 私が大好きなお店と人たち」
『なかしましほ ソウルのおいしいごはんとおやつ』(KADOKAWA)刊行記念 - 05/06 Mon 上岡陽江×信田さよ子
「生きのびてくれて、ありがとう!」
『増補新版 生きのびるための犯罪(みち)』(新曜社)刊行記念 - 05/08 Wed 飯田朔×小山美砂
「“自分軸の人生”から“おりない”ために」
『「おりる」思想 無駄にしんどい世の中だから』(集英社)刊行記念 - 05/09 Thu 黒木あるじ×天野純希
「ドロップキックと武士(もののふ)と」
『破壊屋 プロレス仕舞伝』『もろびとの空 三木城合戦記』(集英社)W刊行記念 - 05/10 Fri pato×田中泰延
「おっさんの私たちが書くことで得られるもの」
『文章で伝えるときいちばん大切なものは、 感情である。』(アスコム)刊行記念 - 05/11 Sat 塩谷舞×岡本真帆
「書いて生きていくための創作術」
『小さな声の向こうに』(文藝春秋)
『あかるい花束』(ナナロク社) W刊行記念 - 05/11 Sat 崔盛旭×岡本敦史
「見える歴史と、見えない歴史を繋ぐために」
『韓国映画から見る、激動の韓国近現代史』(書肆侃侃房)刊行記念 - 05/12 Sun 小津夜景×山本貴光
「本という地図、読むことと書くこと」
『ロゴスと巻貝』(アノニマ・スタジオ)刊行記念 - 05/13 Mon 白根智彦×吉澤清太×片寄雄太
「あなたが(意外と)知らないハンバーガーの世界」
『ハンバーガーとは何か?』(グラフィック社)刊行記念 - 05/17 Fri 鈴木涼美×三宅香帆×原カントくん
「源氏フリークの文芸評論家・三宅香帆が読み解く『YUKARI』と、AV時代全く本を読めなくなったスズミが『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読み解く会」
『YUKARI』(徳間書店)『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社)W刊行記念 - 05/18 Sat 伊藤桃
「てっけん!1周年記念」 - 05/19 Sun Sundayカミデ×奇妙礼太郎
「QUESTIONS」
question3刊行記念トークショー - 05/22 Wed 丸山幸子×田代親世
「韓流取材歴25年の猛者たちが語る〜過去、今、未来」
『韓流前夜』(東京ニュース通信社)刊行記念 - 05/27 Mon 麻田浩×松山猛
「麻田浩が松山猛にずっと聞きたかったこと~麻田浩の聞かずに死ねるか」
映画『トノバン 音楽家加藤和彦とその時代』公開記念 - 06/01 Sat 南信長×トミヤマユキコ
「あのキャラはなぜ〈メガネ/デブ/ブサイク〉なのか?」
『メガネとデブキャラの漫画史』(左右社)刊行記念