何度も同じ場所を訪ねたが、一度たりとて同じ海に巡りあうことはなかった。海は、あらゆる色、光、匂い、音をのみ込みながら、嘲笑うかのように目眩くその姿を変え続け、決してそのすべてを明らかにすることはなかった。
その自由、不確かさ、大胆さと、生命力が、僕を圧倒し続けた。
―――鷲尾和彦『To the Sea』あとがきより
写真家の日常の地続きとしてある神奈川県相模湾をはじめ、神迎えの儀式が行われる八重山諸島、有刺鉄線がはられた辺野古の砂浜、日々を暮らす湘南の海辺、そして、震災直後の三陸海岸……。日本各地の海辺の風景とそこに佇む人びとの姿を10年以上に渡って撮影してきた鷲尾和彦さんの写真集『To the Sea』の刊行を記念して、芥川賞作家・柴崎友香さんとのトークイベントを開催します。
「日常って呼ばれているものがあらかじめあって普通に続いていくもの、という風に私はとらえられないんです。次の瞬間にはなくなるかもしれないし、目の前に見えること、起こっていることは、常に謎だし、美しくて奇妙で、驚異に満ちています」
―――柴崎友香『文學界』9月号掲載インタビューより
当たり前と思ってやり過ごしてしまいがちな日々の出来事や心の動きを見つめ、世界の複雑さと生きることの歓びを書き続けてきた柴崎さん。芥川受賞後第一作となる『きょうのできごと、十年後』は、友人の引っ越し祝いに集まった数人の男女がその日に経験したできごとを5つの視点で描いたデビュー作『きょうのできごと』の10年後、登場人物たちがそれぞれの時間を生き、30代になって再会する一夜を描いた作品です。人はなぜ、目の前のことを見ながら、遠くのできこと、ここにはいない誰か、ありえたかもしれない過去と未来を考えてしまうのか。1枚のイメージから無限の物語を想像させる写真家と、言葉によって切り取る風景を鮮やかに浮かび上がらせる小説家が、見つめることと想像することによって、現実世界に豊かに触れる方法を語り合います。
鷲尾和彦(わしお・かずひこ)
写真家。1967年兵庫県生まれ。1991年早稲田大学教育学部卒業後、博報堂に入社し、マーケティング、インタラクティブメディア、クリエイティブの領域で、様々な企画プロデュース業務を担当。97年から独学で写真活動に取り組むみ、01年に清里フォトミュージアム主催「ヤングポートフォリオ」に、 06年にはガーディアン・ガーデン主催「フォトドキュメンタリーNIPPON」にそれぞれ入選。写真集に『極東ホテル』(赤々舎)、池澤夏樹氏との共著『春を恨んだりはしない』(中央公論新社)、『遠い水平線』(私家版)、『To the Sea』(赤々舎)がある。
http://washiokazuhiko.jp
柴崎友香(しばさき・ともか)
小説家。1973年大阪生まれ。1999年、『文藝 別冊』に掲載された短編「レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー」でデビュー。2000年、初の単行本『きょうのできごと』(河出書房新社)刊行(03年行定勲監督により映画化)。07年『その街の今は』(新潮社)で芸術選奨文部科学大臣新人賞・織田作之助賞大賞、10年『寝ても覚めても』(河出書房新社)で第32回野間文芸新人賞、14年『春の庭』(文藝春秋)で第151回芥川賞を受賞。その他の著書に『わたしがいなかった街で』(新潮社)、『週末カミング』(角川書店)、『星よりひそかに』(幻冬舎)など多数。
※イベントチケットの予約・購入に関するご案内はこちら。
2014/11/29 Sat -
鷲尾和彦×柴崎友香 「それぞれの10年――目の前の景色、遠い記憶。 」写真集『To the Sea』&小説『きょうのできごと、十年後』刊行記念
- 10/03 Fri 鈴木大介×石田月美×大嶋栄子
「当事者とパートナーにとってのより良い支援のために 」
『好きで一緒になったから』(晶文社)刊行記念 - 10/04 Sat 笹公人×天久聖一
「短歌はじめて物語」
『念力物語』(笠間書院)刊行記念 - 10/07 Tue ワクサカソウヘイ×男性ブランコ平井まさあき
「旅ってなんだろう?」
新文芸誌『GOAT meets』(小学館)重版記念 - 10/08 Wed 田中俊行×三鹿灯
「呪物コレクター田中俊行の最新呪物とその奇妙な生活」
『呪物蒐集録 Ⅱ』
『ぼくと呪物の奇妙な生活 闇の契約編』(竹書房)W刊行記念 - 10/09 Thu 國友公司×室橋裕和
「一人旅の流儀」
『ワイルドサイド漂流記 歌舞伎町・西成・インド・その他の街』(文藝春秋)刊行記念 - 10/11 Sat 高妍(Gao Yan)×菅原慎一
「あと何回、満月を見られるだろう」
高妍 Gao Yan ドローイング展『滿月』
at BONUS TRACK GALLERY 2 開催記念 - 10/12 Sun 川添愛×スケザネ
「“パンチライン”の見つけ方/愛で方」
『パンチラインの言語学』(朝日新聞出版)刊行記念 - 10/13 Mon 坂口涼太郎×タケト×銀シャリ鰻和弘×バイク川崎バイク×あわよくばファビアン×ピストジャム
「第一芸人文芸部 俺の推し本。」(BSよしもと)
第16回公開収録 - 10/15 Wed 森見登美彦×照山朋代
「ちょっと変わった本をつくっているので制作風景をお届け&森見さんの最近の徒然」
『宝島』(ミモザブックス)刊行決定記念 - 10/18 Sat 杉田俊介×頭木弘樹
「〈痛み〉を理解するための言葉」
『鬱病日記』(晶文社)
『痛いところから見えるもの』(文藝春秋)W刊行記念 - 10/19 Sun フィクショネス 文学の教室
『侍女の物語』を2ヶ月かけてじっくりと読む - 10/21 Tue 香山哲
「9/2サイン会・10/21トークイベント」
『スノードーム』(生きのびるブックス)刊行記念 - 10/25 Sat 鄭執×関根謙
「物語は変容する~中国東北マジックリアリズムの世界と青春文学」
『ハリネズミ・モンテカルロ食人記・森の中の林』(アストラハウス)第11回日本翻訳大賞受賞記念 - 10/26 Sun 加藤泉×牧信太郎
「加藤泉の制作と生活ーー特集後記的雑談」
『美術手帖 2025年10号・特集「加藤泉」』(美術出版社)刊行記念 - 10/27 Mon 花田優一×小林邦宏×原カントくん
「旅するカルチャートーク『たびかるジャンクション』公開収録」 - 10/29 Wed 高橋國光×マンスーン×吉田棒一
「平成インターネットと令和文学」
新文芸誌『GOAT meets』(小学館)重版記念 - 10/30 Thu 志良堂正史×古田雄介
「小さな歴史を書くこと、読むこと」
『他人の手帳は「密」の味: 禁断の読書論』(小学館)刊行記念 - 10/31 Fri 宮部浩幸×加藤耕一
「リレーとしての建築を語る」
『リレーとしての建築 リノベーションの実践と思想』(学芸出版社)刊行記念 - 11/01 Sat 齋藤陽道×春日晴樹×天沼陽子×橋本一郎
「石神井ろう学校のハルとはるが語る、ろう者の世界。」
『つながりのことば学』(NHK出版)
『はるの空と風』(ジアース教育新社)W刊行記念 - 11/10 Mon 中前結花×古賀史健
「書き手は“休まず、毎日書き続ける”しかないのか?」
『ミシンは触らないの』(hayaoki books)刊行記念 - 11/15 Sat 細馬宏通×ヤマダトモコ×宮本大人
「マンガはうたう 声にむずむずする身体」
『マンガはうたう』(青土社)刊行記念 - 11/18 Tue 栗原康×角幡唯介
「探検としてのアナキズム」
『アナキズムQ&A』(筑摩書房)『43歳頂点論』(新潮社)W刊行記念 - 11/22 Sat 高橋久美子×アフロ
「音と言葉の響き合うところ」
『いい音がする文章』(ダイヤモンド社)
『東京失格』(実業之日本社)W刊行記念 - 11/30 Sun ひろたあきら×みきちゃん(ぽるぽるふぁみりー)
「絵本つくっちゃった!」
『おとしちゃったぞう』(303BOOKS)刊行記念 - 12/20 Sat 第94回「読んでいいとも!ガイブンの輪
年末特別企画
オレたち外文リーガーの自信の1球と来年の隠し球 vol.14