パソコンに向かって、原文と日本語の訳文をにらみながら、ふっと翻訳作業の手を止めて眼鏡をふく。画面から目を離して、曇った眼鏡を丁寧に布でふいていると、そうだった!と気づく。クリアになった眼鏡をかけなおし、またパソコン画面を見ると上手くいかなかった理由がわかる。軽くうつむいて眼鏡をふく一瞬が、作品をつらぬくコンテキストを探る動作になっていたのだ。
アフリカ社会で妹が兄を鋭く見つめる「セル・ワン」、主人公が成長していく「イミテーション」「なにかが首のまわりに」、未経験の歴史の痛覚「ゴースト」、少子化社会で子育てするとは不安を手なづけることなのかと問いたくなる「先週の月曜日に」、マンスプレイニングとパターナリズムの典型の物語。ナイジェリアと米国へ移民する人々の暮らしが絡まる短篇集『なにかが首のまわりに』を読むと、そうか、女たちはどこでもずっと「フェミニズム」の中身を生きてきたのだと気がつく。
アフリカ発/系の文学を訳してきたくぼたのぞみさんと、韓国フェミニズム文学の大ヒットを生んだ斎藤真理子さんの、話しはじめたら止まらない「ジャンピング・フェミ・トーク」。
ぜひご参加ください!
【出演者プロフィール】
くぼたのぞみ
「10年早い」といわれながらアフリカ出身のクッツェーやアディーチェを翻訳してきてわかったこと、それは近代化以来、日本が追いかけてきたヨーロッパやアメリカの「全体像」だった。訳書にチママンダ・ンゴズィ・アディーチェ『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』『アメリカーナ』『半分のぼった黄色い太陽』(すべて河出書房新社)、J・M・クッツェー『モラルの話』(人文書院)『マイケル・K』(岩波文庫)『鉄の時代』(河出書房新社)『サマータイム、青年時代、少年時代──辺境からの三つの<自伝>』(インスクリプト)他、サンドラ・シスネロス『マンゴー通り、ときどきさよなら』(白水社)ほか。著書に『鏡のなかのボードレール』(共和国)『記憶のゆきを踏んで』(水牛、インスクリプト)など。
斎藤真理子(さいとう・まりこ)
1980年に大学のサークルで朝鮮語の勉強を始め、91〜92年にちょこっとソウルに語学留学。韓流ブームには完全に乗り遅れてました。ながーいブランクのあと、『カステラ』(パク・ミンギュ著、ヒョン・ジェフンとの共訳、クレイン)で第1回日本翻訳大賞。訳書『こびとが打ち上げた小さなボール』(チョ・セヒ、河出書房新社)『誰でもない』(ファン・ジョンウン、晶文社)『フィフティ・ピープル』(チョン・セラン、亜紀書房)、『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ、筑摩書房)など。最新刊は『回復する人間』(ハン・ガン、白水社)。韓国を楽しみ・味わい・語らう雑誌『中くらいの友だち』(韓くに手帖舎・皓星社)創刊メンバー。
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