2013年にノーベル文学賞を受賞したカナダの女性作家アリス・マンローの短篇集『善き女の愛』の刊行を記念して、文芸評論家の加藤典洋さんと翻訳家の小竹由美子さんをお迎えし、アリス・マンローの小説の魅力について語り合うトークイベントを開催します。
「短編小説の女王」とも賞されるアリス・マンローの作品群は、一見、平凡な田舎町に暮らす生活者の内面に秘めた機微を細やかに、鋭く描き出し、短編小説でありながら長篇小説に劣らない重厚な読後感をもたらします。また、特徴的な時制の操作など名人芸といえるテクニックを駆使した物語展開は、映画を見るかのような強烈なイメージ喚起力をもち、そしていずれの作品でも、登場する女性たちのリアルな描かれ方が印象的です。
翻訳家の小竹由美子さんは、これまでに『イラクサ』『林檎の木の下で』『小説のように』『ディア・ライフ』『善き女の愛』とアリス・マンロー作品を訳されてきた、日本でのマンローの紹介における第一人者ともいえる存在です。一方、『善き女の愛』で初めてマンロー作品に接したという加藤典洋さんは、その作品世界を評してこう述べています。
この人の小説を読むと、いま書かれている小説の多くが、肌のすべすべした、感じやすくて清新、かつ疑いを知らない、若い男女の物語であることがわかる。一方この人の世界では、時間が緩急自在に物語を動かし、誰もの肩の上に等しく歳月が降りつもる。本文の一行あきの後、世界が数十年過ぎていたりする。その間に、高速度撮影の空を過ぎる雲のように、子供は傷つき、若い人は年老い、仲のよかった夫婦は別れ、老人は死ぬ。
ひそかな回復と希望が、語られないというのではなく、時間の酸をくぐり、ささくれだった手の甲の荒れた皮膚のうえに鉄のペンで記される。この小説の世界では「傷つく」こと「打ちのめされる」ことが大人になるための「道」である。
――加藤典洋(『波』2015年1月号掲載のレビューより)
アリス・マンローは自身の作品について、「わたしのテーマは昔から今にいたるまでずっと『人生なるもの』なのだ」(マンローの長女による伝記より/小竹訳)と語っています。人はなぜ小説を書くのか、そして訳すのか、読むのか。アリス・マンローという作家とその作品を通して、人が生きる上で欠かせない「欲望」と「歓喜」の在処を考えます。
アリス・マンロー(Munro,Alice)
1931年、カナダ・オンタリオ州の田舎町に生まれる。書店経営を経て、1968年、初の短篇集Dance of the Happy Shadesがカナダでもっとも権威ある「総督文学賞」を受賞。やがて国外でも注目を集め、ニューヨーカーに作品が掲載されるようになる。寡作ながら、三度の総督文学賞、W・H・スミス賞、ペン・マラマッド賞、全米批評家協会賞ほか多くの賞を受賞。おもな作品に『イラクサ』『林檎の木の下で』『小説のように』『ディア・ライフ』『善き女の愛』など。チェーホフの正統な後継者、「短篇小説の女王」と賞され、2005年にはタイム誌の「世界でもっとも影響力のある100人」に選出。2009年、国際ブッカー賞受賞。2013年、カナダ初のノーベル文学賞受賞。『善き女の愛』は1998年全米批評家協会賞受賞作。
加藤典洋(かとう・のりひろ)
1948年、山形県生まれ。文芸評論家。東京大学文学部卒業。著書に『アメリカの影―戦後再見―』、『言語表現法講義』(新潮学芸賞)、『敗戦後論』(伊藤整文学賞)、『テクストから遠く離れて』『小説の未来』(桑原武夫学芸賞)、『村上春樹の短編を英語で読む1979~2011』『3.11死に神に突き飛ばされる』『小さな天体―全サバティカル日記―』『人類が永遠に続くのではないとしたら』ほか多数。共著に鶴見俊輔・黒川創との『日米交換船』、高橋源一郎との『吉本隆明がぼくたちに遺したもの』ほか。
小竹由美子(こたけ・ゆみこ)
1954年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。訳書にアリス・マンロー『イラクサ』『林檎の木の下で』『小説のように』『ディア・ライフ』『善き女の愛』、ネイサン・イングランダー『アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること』、ジョン・アーヴィング『ひとりの体で』ほか多数。
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2015/02/28 Sat -
加藤典洋×小竹由美子 「小説の歓び〜書く、訳す、読む〜アリス・マンローをめぐって」『善き女の愛』(新潮クレスト・ブックス)刊行記念
- 10/01 Sun 青木由弥子×水島英己
「野のうへは なほ光ありしや―戦時下の“抒情”を考える」
『伊東静雄―戦時下の抒情』(土曜美術社出版販売)刊行記念対談 - 10/02 Mon 大島依提亜×木村和平
「『アンダーカレント』の世界観」
映画『アンダーカレント』公開記念 - 10/03 Tue 橋口幸生×田中泰延
「健康に良い言葉、悪い言葉とは?」
『言葉ダイエット』(宣伝会議)5刷記念 - 10/05 Thu 信田さよ子×武田砂鉄
「なかったことにするもんか会議」
『家族と厄災』(生きのびるブックス)
『なんかいやな感じ』(講談社)W刊行記念 - 10/06 Fri うえはらけいた×藤井亮
「“ゾワワ”の神様の正体を藤井さんと考える」
『ゾワワの神様』(祥伝社)刊行記念 - 10/07 Sat 今野晴貴×奥貫妃文×竹信三恵子
「コロナ禍は誰を直撃したのか?
──女性・ケアワーカー・非正規労働者」
『生きのびるための社会保障入門』(堀之内出版)
『女性不況サバイバル』(岩波書店)W刊行記念 - 10/08 Sun 大塚篤司×幡野広志
「医師と患者の新しい関係」
『皮膚科医の病気をめぐる冒険』(新興医学出版社)刊行記念 - 10/09 Mon 川上康則×風間暁
「「生きたい、行きたい」と思える学校にするために」
『不適切な関わりを予防する 教室「安全基地」化計画』
(東洋館出版社)刊行記念イベント - 10/11 Wed 柴崎祐二×伏見瞬×パンス
「新しいムーブメントは、リバイバルとともに生まれる」
『ポップミュージックはリバイバルをくりかえす』(イースト・プレス)刊行記念 - 10/12 Thu 川野芽生×高田怜央
「文学はつねにすでに翻訳である」
『奇病庭園』(文藝春秋)
『SAPERE ROMANTIKA』(paper company)W刊行記念 - 10/13 Fri 村井理子×酒井順子
「母には振り回されてきたけれど~娘から見た昭和を生きた母親たち」
『実母と義母』(集英社)刊行記念 - 10/14 Sat 岡本仁×オオヤミノル×堀部篤史
「コーヒーブレイクのディスクール」
『ぼくのコーヒー地図』(平凡社)刊行記念 - 10/14 Sat 御代田太一×村上靖彦
「救護施設からのぞく社会」
『よるべない100人のそばに居る。』(河出書房新社)刊行記念 - 10/15 Sun 博報堂生活総合研究所×谷川嘉浩×原カントくん
「“消齢化”社会ってなんだ!?年齢に関係なく価値観でつながる時代を生きる」
『消齢化社会 年齢による違いが消えていく! 生き方、社会、ビジネスの未来予測』(集英社インターナショナル)
刊行記念 - 10/17 Tue 村上由鶴×長島有里枝
「日常の違和感から始まる」
『アートとフェミニズムは誰のもの?』(光文社)刊行記念 - 10/18 Wed 鈴木俊貴×水野太貴
「動物言語学とは何か?」
『動物たちは何をしゃべっているのか?』(集英社)刊行記念 - 10/20 Fri 高木瑞穂×大泉りか
「異なる視点であぶりだす、“立ちんぼ”と“ホス狂い”の深い闇」
『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』(鉄人社)刊行記念 - 10/21 Sat 横道誠×頭木弘樹
「マコトクアドラプルの2DAYS〜旅・民話・地域編〜」
『グリム兄弟とその学問的後継者たち―神話に魂を奪われて』(ミネルヴァ書房)
『解離と嗜癖──孤独な文学研究者の日本紀行』(教育評論社)刊行記念 - 10/22 Sun 横道誠×小川公代
「マコトクアドラプルの2DAYS〜当事者・ケア・世界文学編〜」
『発達障害の子の勉強・学校・心のケア――当事者の私がいま伝えたいこと』(大和書房)
『村上春樹研究──サンプリング、翻訳、アダプテーション、批評、研究の世界文学』(文学通信)
『世界文学をケアで読み解く』(朝日新聞出版)刊行記念 - 10/26 Thu 渡名喜庸哲×西谷修
「フーコー、ドゥルーズ、デリダ以後を読む——変容する『いま』を哲学するということ」
『現代フランス哲学』(筑摩書房)刊行記念 - 10/28 Sat 和田靜香×小泉今日子
「これから、ひとりでどう暮らそう?」
『50代で一足遅れてフェミニズムを知った私がひとりで安心して暮らしていくために考えた身近な政治のこと』(左右社)刊行記念 - 10/31 Tue スケザネ×山下紘加
「本の扉をあけて 山下紘加と語る読書の喜び」
『煩悩』(河出書房新社)刊行記念 - 11/01 Wed 羽生有希×中村香住×深海菊絵×松浦優
「フツーの恋愛、性愛ってなに?」
『ACE アセクシュアルから見たセックスと社会のこと』(左右社)刊行記念 - 11/19 Sun 伊藤桃×がみ
「てっけん!第4回」 - 11/29 Wed 加藤優一×御手洗龍×山道拓人×飯石藍
「銭湯と建築がひらく、都市の公共性」
『銭湯から広げるまちづくり
小杉湯に学ぶ場と人のつなぎ方』(学芸出版社)刊行記念