新しい韓国文学がこんなにも面白く、またパワフルなのはなぜなのか。ブームの牽引者でもある斎藤真理子さんが、日本との関わりとともに読み解き、その魅力を語る人気講座の第三弾!!
『82年生まれ、キム・ジヨン』は韓国で100万部売れましたが、39年間で130万部、実に300刷を超えているベストセラーがあります。それがチョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』です。
作者は「この悲しみの物語がいつか読まれなくなることを願う」と言います。自分の書いた本が読まれないことを願う? いったいどういうことなんでしょうか。
1960年ごろまでの韓国のGDPはフィリピン、タイの2分の1ぐらいで、南の経済規模が北に追いついたのは1973,74年頃だったとされています。70年のソウル市の人口は77万人、10人に1人以上がスラムに住んでいました。そして、急速な経済成長と都市開発がはじまると、ゴミ扱いされ、虐げられ、騙され、「蹴散らされた人々」がいました。貧しい人々、また本書に出てくる「こびと」、「いざり」、「せむし」など、今日では不適切な差別用語となっている、いろいろな障害を持った人々です。
70年代ソウル—急速な都市開発を巡り、極限まで虐げられた者たちの千年の怒りが渦巻くこの悲しく切ない物語が、なぜこれほどまでに長く読み継がれているのか。そのことは、ストレートに「文学に何ができるのか」ということと繋がってきます。今回もまた、韓国と日本と世界の歴史を振り返りつつ、斎藤真理子さんが、現代を照射するこの作品を丁寧に読み解いていきます。
この本は連作短編集ですから、全作読んでいただければベストですが、表題作「こびとが打ち上げた小さなボール」だけでも大丈夫です。また、読んでいなくてもOKです。
以降、『広場』(チェ・インフン)、『1945、鉄原』(イ・ヒョン)、『少年が来る』(ハン・ガン)、『生姜』(チョン・ウニョン)、『外は夏』(キム・エラン)、『フィフティ・ピープル』(チョン・セラン)、『娘について』(キム・ヘジン)、『ショウコの微笑』(チェ・ウニョン)などを取り上げる予定です(変更あり)。
【出演者プロフィール】
斎藤真理子(さいとう・まりこ)
1980年に大学のサークルで朝鮮語の勉強を始め、91〜92年にちょこっとソウルに語学留学。韓流ブームには完全に乗り遅れてました。ながーいブランクのあと、『カステラ』(パク・ミンギュ著、ヒョン・ジェフンとの共訳、クレイン)で第1回日本翻訳大賞。訳書『こびとが打ち上げた小さなボール』(チョ・セヒ、河出書房新社)『誰でもない』(ファン・ジョンウン、晶文社)『フィフティ・ピープル』(チョン・セラン、亜紀書房)、『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ、筑摩書房)など。責任編集を務めた新刊『韓国・フェミニズム・日本』(河出書房新社)が11月下旬刊行予定。韓国を楽しみ・味わい・語らう雑誌『中くらいの友だち』(韓くに手帖舎・皓星社)創刊メンバー。
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